健康診断や血液検査の結果を見て、
「eGFRが60を切っていますね」
と言われたことはありませんか?
eGFRは、簡単にいうと「腎臓が血液をろ過する力がどのくらいあるか」を推定した数字です。
一般的にはeGFRが60未満の状態が3か月以上続く場合、慢性腎臓病(CKD)の可能性を考えます。
ただし、
「eGFRが60を切った=もうすぐ透析」
という意味ではありません。
大切なのは、現在の数字だけを見て心配することではなく、
「これから腎機能がどのくらいの速さで低下していくのか」
を考えることです。
そして近年、この分野の治療は大きく進歩しています。
そもそもeGFRとは?
腎臓には、血液中の老廃物や余分な水分を尿として排泄する役割があります。
その「ろ過する力」を推定したものがeGFRです。
健康な若い人では高い値を示しますが、eGFRは年齢とともに少しずつ低下する傾向があります。
そのため、特に高齢の方ではeGFRが60を下回ること自体は珍しくありません。
重要なのは、
「60を切ったかどうか」だけではなく、「どのくらいの速さで低下しているか」
を見ることです。
例えば、
「数年間ほとんど変わらず55前後」
という方と、
「70→60→50と数年間で低下している」
という方では、同じeGFR 50台でも意味が違います。
過去の血液検査と比較することがとても大切です。
eGFRだけでなく「尿蛋白」も重要です
腎臓の状態を調べるうえで、もう一つ重要なのが尿蛋白(尿アルブミン)です。
尿に蛋白が多く出ているということは、腎臓のフィルターに負担がかかっている可能性があります。
そのため慢性腎臓病では、
- eGFRがどのくらいか
② 尿蛋白・尿アルブミンがどのくらい出ているか
この両方から将来のリスクを考えます。
血液検査だけでなく、尿検査も大切なのはこのためです。
腎機能は「悪くなったら何もできない」わけではありません
以前は慢性腎臓病に対して、
- 「血圧を下げる」
- 「塩分を控える」
- 「糖尿病を悪化させない」
といった治療が中心でした。
もちろん、これらは現在でも非常に重要です。
しかし近年、腎臓を守ることを目的とした薬物治療について、大規模な研究結果が次々と発表されています。
その代表がSGLT2阻害薬です。
糖尿病の薬が「腎臓を守る薬」に
SGLT2阻害薬は、もともと糖尿病の血糖値を下げる薬として登場しました。
ところが、その後の研究で非常に興味深いことが分かってきました。
この薬には血糖値を下げるだけでなく、腎臓にかかる負担を減らし、腎機能の低下を遅らせる作用があることが分かってきたのです。
DAPA-CKDやEMPA-KIDNEYといった大規模研究では、一定の条件を満たす慢性腎臓病の患者さんで、SGLT2阻害薬によって腎臓病の進行や腎不全などのリスクが低下することが示されています。
さらに重要なのは、
糖尿病のない慢性腎臓病の患者さんでも、腎保護効果が確認されていることです。
現在ではSGLT2阻害薬は、単なる「糖尿病の薬」ではなく、患者さんによっては「腎臓や心臓を守る薬」として使われるようになっています。
飲み始めるとeGFRが少し下がることもあります
ここは少し意外かもしれません。
SGLT2阻害薬を開始すると、最初にeGFRが少し低下することがあります。
「腎臓を守るために薬を飲み始めたのに、数字が悪くなった!」
と心配になるかもしれません。
しかしこれは、腎臓の中にかかっている圧力を調整することによって起こる変化で、その後はむしろ長期的なeGFRの低下が緩やかになることが知られています。
もちろん、脱水や急激な腎機能低下など別の原因がないか確認する必要はありますが、開始直後の軽度のeGFR低下だけで、必ずしも「薬が腎臓を悪くした」と判断するわけではありません。
血圧の治療も腎臓を守ります
高血圧と腎臓は密接な関係があります。
血圧が高い状態が続くと腎臓の細い血管が傷み、腎機能低下につながります。
反対に腎機能が低下すると血圧が上昇しやすくなります。
つまり、
高血圧 → 腎臓が悪くなる → さらに血圧が上がる
という悪循環が起こることがあります。
特に尿蛋白・尿アルブミンが多い方では、ACE阻害薬やARBと呼ばれる降圧薬が、血圧を下げるだけでなく腎臓を保護する目的でも使用されます。
ただし、血圧を下げすぎればよいわけではありません。
年齢や体調、立ちくらみの有無なども考えながら、一人ひとりに合った血圧を目指します。
薬だけではありません。生活習慣も大切です
腎臓を守るためには、毎日の生活も重要です。
特に意識したいのが塩分です。
塩分の摂りすぎは血圧を上昇させ、腎臓に負担をかけます。
漬物、加工食品、麺類の汁、インスタント食品などには、思った以上に塩分が含まれていることがあります。
また、
- 適正体重を保つ
- 適度に運動する
- 禁煙する
- 糖尿病があれば血糖値を適切に管理する
- 血圧を適切に管理する
といった基本的な生活習慣も、長期的には大切です。
一方で、腎臓が悪いからといって、自己判断で極端な食事制限をすることはおすすめできません。
特に高齢の方が過度に蛋白質やカロリーを制限すると、筋肉が減り、かえって健康を損ねてしまうことがあります。
腎機能の程度や年齢に合わせて考える必要があります。
痛み止めにも注意しましょう
意外と見落とされやすいのが薬です。
ロキソプロフェンなどのNSAIDsと呼ばれる鎮痛薬は、状況によっては腎臓への血流を減らし、腎機能を悪化させることがあります。
特に、
- 「腎機能が低下している」
- 「高齢である」
- 「脱水している」
- 「利尿薬などを使用している」
といった方では注意が必要です。
もちろん必要な場合もありますので、すべての痛み止めが禁止という意味ではありません。
市販薬を含め、普段飲んでいる薬を主治医や薬剤師に確認してもらうことが大切です。
eGFRは「今の数字」より「これから」が大切
私たちが診療で大切にしているのは、
eGFRを一回測って終わりにしないことです。
例えばeGFRが、
65 → 61 → 57 → 52
と低下していれば、その原因を考える必要があります。
一方、治療や生活習慣の見直しによって、
55 → 56 → 58
のように安定したり、多少改善したりする方もいらっしゃいます。
ただし、eGFRは水分状態や筋肉量、薬剤などによって多少変動します。
そのため「数字を上げること」だけを目標にするのではなく、
腎機能が低下していくスピードをできるだけ緩やかにすること
が重要です。
透析を「できるだけ遠ざける」ために
慢性腎臓病は、かなり進行するまで自覚症状がほとんどないことがあります。
そのため、
「体調はいいから大丈夫」
と思っている間にも腎機能が低下していることがあります。
一方、現在では慢性腎臓病に対する治療の選択肢が増えてきました。
血圧管理、糖尿病治療、ACE阻害薬・ARB、SGLT2阻害薬、食塩摂取の見直し、禁煙、適切な運動、腎臓に負担となる薬剤の見直しなど。
こうした対策を一つひとつ積み重ねることで、腎機能低下を遅らせ、将来の透析リスクを減らせる可能性があります。
大切なのは、
「eGFRが悪くなってから考える」のではなく、「まだ余裕があるうちから腎臓を守る」ことです。
健康診断などで「eGFRが低い」「腎機能が低下している」と言われた方は、一度その数字だけを見るのではなく、過去からのeGFRの推移や尿蛋白、血圧、血糖値、現在のお薬などを一緒に確認してみましょう。
腎臓を守る治療は、この数年で大きく進歩しています。
将来の透析をできるだけ遠ざけるためにも、早い段階から自分の腎臓の状態を知り、適切な対策を続けていくことが大切です。