「もう70歳を過ぎたし、コレステロールは少しくらい高くてもいいのでは?」
「コレステロールの薬は、いつまで飲み続ければいいのでしょうか?」
診察室でも、このような質問をいただくことがあります。
LDL(悪玉)コレステロールが高い状態が続くと、動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳卒中などの原因になります。そのため、LDLコレステロールを下げる「スタチン」という薬が広く使われています。
一方で、高齢になるほど「薬を飲むメリットが本当にあるのか」「副作用は大丈夫なのか」と心配になる方も多いと思います。
そんな疑問を考えるうえで重要な研究「STAREE試験」の結果が、2026年8月、医学誌『New England Journal of Medicine(NEJM)』に発表されました。
STAREE試験とは?
STAREE試験では、オーストラリアに住む70歳以上の約1万人(9,971人)が参加しました。
対象となったのは、これまでに心筋梗塞や脳卒中などの心血管疾患を起こしたことがなく、糖尿病や認知症もない、比較的元気な高齢者です。
参加者を、
- コレステロールを下げる薬「アトルバスタチン40mg」を飲むグループ
- 薬の成分を含まないプラセボ(偽薬)を飲むグループ
に分け、中央値で約5.9年間経過をみました。
つまり、
「これまで大きな心血管病を起こしていない元気な70歳以上の方でも、スタチンを飲む意味があるのか?」
を調べた大規模な研究です。
心筋梗塞などの心血管イベントが約30%減少
結果は注目すべきものでした。
心血管死、心筋梗塞、脳卒中、冠動脈の治療(カテーテル治療やバイパス手術など)を合わせた「主要心血管イベント」は、スタチンを飲んだグループで約30%少なくなりました。
特に心筋梗塞や冠動脈の治療について、スタチンによる予防効果が認められました。
これまで、高齢者、特に70歳以上で「まだ心筋梗塞などを起こしていない方」にスタチンを使用することについては、若い世代ほど十分な研究データがありませんでした。
今回の研究は、
「70歳を過ぎていても、LDLコレステロールを下げることで心血管病を予防できる可能性がある」
ことを示す重要な結果と考えられます。
「スタチンを飲むと認知症になる」は本当?
コレステロールの薬について、
「長く飲むと認知症になりませんか?」
と心配される方もいらっしゃいます。
STAREE試験では、スタチンを使用したことで、死亡・認知症・持続する身体障害を合わせたリスクが増えることはありませんでした。
一方で、スタチンを飲めば認知症を予防できる、寿命が延びる、いつまでも元気に生活できる、とまで証明されたわけではありません。
ここは今回の研究を理解するうえで大切なポイントです。
スタチンのメリットとして明確だったのは、主に心筋梗塞などの心血管イベントを減らしたことです。
では、70歳を過ぎたら全員スタチンを飲むべき?
そういうわけではありません。
今回の研究結果からも、
「70歳を超えたからコレステロールの治療は必要ない」
と年齢だけで判断するのは適切ではないと考えられます。
しかし反対に、
「70歳以上なら全員スタチンを飲んだ方がいい」
という意味でもありません。
同じLDLコレステロール150mg/dLでも、その方によって心筋梗塞や脳卒中になるリスクは異なります。
治療を始めるかどうかは、LDLコレステロールの値だけではなく、
- 年齢
- 血圧
- 喫煙の有無
- 腎臓の機能
- 動脈硬化の程度
- ご家族の心筋梗塞などの病歴
- 現在飲んでいる薬
- 体力や生活の状態
などを総合的に考えることが大切です。
また、スタチンには筋肉症状や肝機能異常などの副作用がみられることがあります。STAREE試験でも重篤な有害事象全体には大きな差はありませんでしたが、筋骨格系、肝胆道系、糖尿病関連の有害事象はスタチン群でやや多く認められました。
薬のメリットとデメリットの両方を考えて、一人ひとりに合った治療を選ぶ必要があります。
大切なのは「年齢だけで決めない」こと
今回のSTAREE試験から得られる大切なメッセージは、
「高齢だから」という理由だけで、LDLコレステロールを下げる治療をあきらめる必要はない
ということだと思います。
70代、80代になっても元気に生活される方が増えています。
そのような方にとって、これから先の10年、20年を考え、心筋梗塞や脳卒中をできるだけ予防することには大きな意味があります。
一方で、薬を飲むかどうかはコレステロールの数字だけを見て決めるものでもありません。
「自分のLDLコレステロールは治療した方がいいのだろうか?」
「もう高齢だけれど、今の薬を続けた方がいいのだろうか?」
と疑問に思われる方は、自己判断で薬を中止せず、かかりつけ医に相談してみてください。
当院では、コレステロールの値だけではなく、血圧や糖尿病の有無、腎機能、これまでの病歴なども含め、将来の心筋梗塞や脳卒中のリスクを考えながら治療方針をご相談しています。
年齢ではなく、その方のこれからを考えて治療する。
コレステロール治療でも、その視点を大切にしていきたいと考えています。